PT成績の解釈ガイド — 数字をどう読むか¶
作成日: 2026-03-20 対象: AEGIS BeatShield Paper Trading (Saxo SIM) 関連: ORATS BT総合結果
1. 概要¶
AEGIS BeatShieldのPaper Trading (PT) は好調な成績を示しているが、PTの数字をそのまま「将来の期待リターン」として解釈するのは危険である。本レポートでは、PTの各指標が何を意味し、どの程度信頼できるかを整理する。
結論
- 勝率 (Win Rate): 高い信頼性。実行モデルに依存しない指標であり、戦略のエッジが実在する証拠
- リターン (TW/Equity): 楽観的な数字。実際のfill品質に応じて1〜5割程度低下する可能性がある
- MaxDD: 方向性は信頼できるが、実際のfill環境ではやや悪化する可能性がある
2. PT実行環境の理解¶
2.1 現在のPT構成¶
| 項目 | 設定 | 意味 |
|---|---|---|
| 約定方式 | 内部fillシミュレータ | Saxo APIではなくソフトウェア上の仮想約定 |
| CRチェック価格 | MID (bid+ask)/2 | エントリー判断は最も楽観的な価格で実施 |
| 約定価格 | MID (bid+ask)/2 | 実際のfillも(bid+ask)/2で計算 |
| 品質フィルタ | BA幅≤40%, min_bid≥$0.05 | 流動性の低いスプレッドを除外 |
2.2 なぜ「バーチャルのバーチャル」なのか¶
Saxo SIM環境がオプションquoteに対してOldIndicative(15分遅延の参考価格)を返すため、リアルタイムのTradeable価格が取得できない。この制約により:
- PTはSaxoの実マーケットデータではなく、内部計算したMID価格で約定をシミュレートしている
- 実際の市場でのbid-askスプレッドコスト(スリッページ)が反映されていない
- LIMIT注文の実約定挙動を検証できない
Saxoサポート問い合わせ中
SIM環境でのOldIndicative問題についてSaxoに問い合わせ済み(SAX-7150683)。Tradeable価格が取得可能になれば、PTの約定品質が大幅に改善される。
3. 実行モデル比較 — MID vs SPREAD vs Split¶
BT結果は実行モデルの選択によって劇的に異なる。
3.1 三つの実行モデル¶
| モデル | CRチェック | 約定価格 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| MID | MID | MID | 楽観的。PTの現状に近い |
| SPREAD (fill=0.25) | SPREAD | SPREAD | 二重に悲観的。CRも約定も保守的 |
| Split (CR=MID/Fill=SPREAD) | MID | SPREAD (fill=0.25) | 現実的。「MIDで判断→bid寄りで約定」 |
3.2 モデル別7年BT結果 (2019-01 〜 2026-01, $32K)¶
| モデル | Total Wealth | MaxDD | Win Rate | Trades |
|---|---|---|---|---|
| MID | $123,655,236 | 20.3% | 81.4% | 12,248 |
| Split (fill=0.25) | 集計中 | 集計中 | 集計中 | 集計中 |
| SPREAD (fill=0.25) | 集計中 | 集計中 | 集計中 | 集計中 |
Split modelについて
Split modelは2026-03-20に実装。CRチェックにMID価格を使用しつつ、約定にはSPREAD価格(fill_ratio=0.25 = bidと midの25%地点)を使用する。資金計画に最も適したモデル。
4. 指標別の信頼性評価¶
4.1 勝率 (Win Rate) — 高信頼¶
PTの勝率は素直に信じてよい。
勝率は主に以下の要因で決まり、fill価格の影響を受けにくい:
- Theta Decay(時間価値の減衰): オプションの自然な減価は、fill品質に無関係
- 原資産の方向性: 相場がスプレッドの利益方向に動くかどうかはfillに依存しない
- TP/SL比率: 利確・損切のトリガーはentry creditに対する比率であり、entry creditがMIDでもSPREADでも相対的な判定基準は同じ
Split modelではCRチェックがMIDのため、MIDと同じ取引ユニバースでトレードする → 勝率はMIDとほぼ同一になる。
PT勝率の意味
高い勝率は「BeatShield戦略のクレジットスプレッド売りにエッジが存在する」ことの直接的な証拠。これはfill品質が改善しても悪化しても大きくは変わらない。
4.2 リターン (Total Wealth / Equity) — 要割引¶
PTのリターンは1〜5割程度の割引が必要。
リターンに影響する要因:
| 要因 | 影響方向 | 大きさ |
|---|---|---|
| MIDモデルの楽観性 | 過大評価 ↑ | 大 — bid-askスプレッド分の利益が仮想的に計上される |
| 複利効果の増幅 | 過大評価 ↑ | 大 — 初期の小さな差が7年で指数的に拡大 |
| 品質フィルタ (BA幅等) | 過小評価 ↓ | 中 — 不良取引を除外する分、実PTはBTより保守的 |
| データ遅延・欠損 | 過小評価 ↓ | 小 — 一部の好機を逃す |
割引率の目安(BT結果から推定):
- fill_ratio = 0.75 (楽観的): TW × ~0.7〜0.8
- fill_ratio = 0.50 (中間): TW × ~0.5〜0.6
- fill_ratio = 0.25 (保守的): TW × ~0.3〜0.4
複利の非線形性
7年BTで見ると、MIDとSPREADのTWは数十倍の差になるが、これは複利の指数的増幅の結果。1取引あたりの差は数%〜十数%に過ぎない。実運用期間が短ければ差は小さくなる。
4.3 MaxDD (最大ドローダウン) — 方向性は信頼可¶
MaxDDの方向性は信頼できるが、実際にはやや悪化する。
- fill品質が悪い → entry creditが少ない → 同じ損失額でもDD%が大きくなる
- ただしSplit modelでは同じ取引ユニバースのため、DDが発生するタイミング・パターンは同じ
- MID DDが20%なら、実際は25-30%程度を見込むのが安全
5. 資金計画への適用¶
5.1 推奨アプローチ¶
| 用途 | 使うべきモデル | 理由 |
|---|---|---|
| 戦略の有効性検証 | MID | エッジの存在を確認するため |
| 資金調達計画 | Split (fill=0.25) | 保守的だが現実に近い |
| リスク管理 (MaxDD) | Split × 1.3〜1.5倍 | 安全マージン |
| 最悪ケース分析 | SPREAD (fill=0.25) | 下限推定として |
5.2 校正のロードマップ¶
- 現在: Split model BTで保守的期待値を算出
- 短期: Saxo SIMのTradeable quote問題が解決 → 実fillデータで校正
- 中期: PT実績 vs BT予測の乖離分析 → fill_ratioの実測値を確定
- 目標: 実fillデータに基づく校正済みBTモデルで、±10%精度の予測
6. まとめ¶
| 指標 | PT数字の信頼性 | アクション |
|---|---|---|
| 勝率 80%+ | 信頼できる | 戦略のエッジは実在 |
| TWリターン | 3〜5割程度割引 | Split model BTを基準に |
| MaxDD | 方向性のみ | ×1.3〜1.5の安全マージン |
| 取引頻度 | 信頼できる | エントリー機会の多さは再現する |
最も重要なポイント
PTの高い勝率は、BeatShield戦略が構造的なエッジを持つことの最も強力な証拠である。リターンの絶対値は実行環境に依存するが、「勝てる戦略であること」自体は高い確度で信頼できる。